2009/09/09

小説 「消せない ケシゴム」

涙が出るのは悲しい時だけだと、子供頃思っていたけど、どうやら大人になると嬉し涙ってのがあるって事を知った。さえこは、中小企業の経理課に勤めるかたわら、趣味のバイオリンのレッスンにあけくれていた。今時めずらしいOLだ。趣味範囲のバイオリンのレッスンで、小さなコンサートを町の公民館で開いた。けして、友達づきあいがうまい訳ではないから・・・友人には一人も自分のコンサートには声をかけなかった。座席はたったの30席、ライトも会場の雰囲気もけして満足できるものではないけど、それでもOLのパソコンに向ってる自分に比べたら、断然そこには虹のような世界があった。35歳で独身の彼女には、バイオリンの奏でる音が心の中から感情を沸きだせるゆいつの声なのだ。さえこは、この会場がどんなに小さくても、弾ける喜びに涙が出た。「高宮さん・・・どうしたの?」「あっ、すいません。なんだか嬉しくて・・・自分のバイオリンを聴いてくれる人がいると思うだけで嬉しくて・・・」さえこのバイオリン講師の高木はバイオリンのコンサート以外にも、沢山の楽団仲間とネットワークを作り、町のあちらこちらで、ミニコンサートを開いているのだ。高木はさえこの実力は本物ではないけれど、純粋にバイオリンに向き合う姿に、技術ではなく、心からにじみでる音に、惹かれていた。
そんなさえこに、思いもよらないことが起こる。バイオリンのコンサート直前に、壊れかけたパイプ椅子に遅れて座った人がいた。ふと、よく見ると・・・・薄汚い緑色の長いトレンチコートを着た、50代の男だった。さえこの脳裏に嫌な予感がはしった。「もしかして・・・・」さえこは、このミニコンサート主催の高木に「すいません、私の番少し遅らせてもらえませんか?」高木は、いつもと違うさえこの表情に驚いた。「どうしたの?大丈夫さえこさん。何かあった?具合でも悪い?」高木は、さえこを椅子に座らせ、少し落ち着くよう促したが、いっこうにさえこの様子がよくならないのだ。ちょうどその頃、パイプ椅子に何気なく座っている男が警察手帳を出しながら、誰かを探し始めていた。主催の高木が会場の責任者に呼ばれた。「高木さ~ん。すいません、警察の方がお話を聞きたいと言ってるんですが・・・」んんん?警察・・・高木は、警察が何でこの会場に来ているのか不思議でならなかった。さえこは側にいて体をビクッとさせ、顔を伏せながら後ろのドアから走るように出た。「あっ!!!!さえこさん・・・・待って!!」高木が思わず叫んだ。彼女の姿を見るのが、これが最後になるんて、この時は思いもよらなかった。

これまでの登場人物紹介
(主人公・OL 高宮さえこ)  (ミニコンサート主催・バイオリン講師 高木美穂)
(謎の警察管)
続きは、また後ほどお書き致します。

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